狂気に魅入られた世界。何が正義で何が悪なのか、それは分からない・・・。
もし正義があるならなぜ正義は自分達を助けてくれないのだろうか?
それなら自分の信じる正義を貫けば良い・・・。それが唯一の証だから・・・。
だからこそ、俺はここに居る・・・。


「天霧」に・・・・・・・・・・・・。



2015年・・・某日・・・。

漆黒の雨が降る・・・全てを黒く染めてしまうほど黒く悲しい雨・・・。
完全な黒を赤く染める血の色と匂い・・・。
二人が通るぐらいしか無い細い路地にその匂いはあった。
たった一人の男が座しているのは、路地を封鎖している仲間だろうか・・・その死体がざっと計算して15名弱。恐怖が支配する・・・。
次の瞬間・・・・・・。
その男に弾丸の雨が降りかかる。人一人掻い潜れる間が無いほどに打たれる弾丸の嵐・・・。常識的に考えればまず死ぬはずだ・・・。
しかし、この世界に常識など無い。全てが非常識・・・。そして全てが常識となるこの世界。

死んだと思われた瞬間、その男の姿は路地から消えていた。その代わりに路地の建物の壁が大きな音を立てながら足跡だけを残していた。
そう、男はこの世界では「常識的」な身体能力者だった・・・。
ザシュ・・・。ギャァァァァァーーーー。

叫び声と共に聞こえるのは何かが勢い良く飛び出る音。その音と共にまた一人・・・また一人と封鎖している仲間が死体の仲間となっていく・・・。

狂気に魅入られた男・・・・・・。
血を見ることに快感を覚えているのだろう・・・。嬌声を上げ、その男の声がその空間を異質なものに変え、支配している。

しかし、それもすぐに終わる・・・・・・。
自分が座していた死体から飛び降りた。その男の視線は、既に地面にある死体には向かれていない。その先に居る、二人組へと注がれている。

「なんだぁ?てめぇ〜らは。」
初めてだろう・・・その男が口を開いた。耳に残るほどの嫌な声・・・。
その目は正気を失っている・・・。正真正銘の殺人鬼・・・。


「レッドリストNO,10015『坂内 透』・・・現在までに手に掛けた人数128名、生き残った者は0人・・・正真正銘の殺人鬼だな・・・。」
視線の先に居る男に対して二人組のうちの一人は手元にあるリストを見ながら、冷静に話を続けていた。

レッドリスト・・・。ブラックリストを超える凶悪犯罪者専用リスト。生死を問わないブラックリストとは違い、抹殺が絶対条件。生きている限り、人々を殺し続けるため被害が拡大する前に殺さなければならない犯罪者のリスト・・・。
なぜなら・・・・・・・・・。



その身に、特殊能力を有しているため・・・・・・・・・。



「あぁぁ?俺が坂内だぁぁ・・・・・・。」
いい切る前に坂内が姿を消した。そう、坂内がレッドリストに載っているって事は、もちろん能力を有している。

坂内は脚力が異常なほど高まった凶悪犯・・・本来の力を使えば足音や足跡すら見えない。

建物の壁を使いながら迫り来る坂内の狂気・・・。
二人組以外だったら、既に腰を抜かし坂内に背を向けていただろう。
しかし、二人組は臆することなく冷静に坂内を見続けていた・・・・・・。

「坂内、もう終わりにしよう・・・柳・・・頼んだ。」

柳と呼ばれた男は、何も持っていなかった両手から奇術のようにナイフを現して見せた。そのナイフを「おそらく」坂内が通るであろう場所へ投げつける。

坂内は目を疑った・・・。自分を捉えることのできる人間がそうそう居るはずも無い。
ましてや、常識的な人間が的外れに投げているとは思えない。
こう考えている今もナイフは坂内が通る場所を的確に捉えている。しかし、坂内もそこでやられるほどじゃない。125人もの人間を手に掛け続けた男のプライドもあった。
坂内は自分の獲物でもある2尺程度の小太刀を腰から取り出し、ナイフを次々と弾き続ける・・・。

柳は、ナイフが無くなると再び奇術のようにナイフを両手から現して投げつける。
対して坂内も自慢の脚力と小太刀を巧み使い弾き続ける。
お互いの実力は、ほぼ互角・・・。能力が拮抗している分、身体能力を有していない柳の方が若干不利になる。
しかし、柳の武器はナイフだけではない。次は拳銃を取り出した。
その拳銃は既存のものではない。明らかに誰かに頼んで作らせた特注品だ。
両腿に備えておいたその拳銃専用の弾倉の一つを上空に投げ出すと、柳は拳銃の引き金を目にも止まらぬスピードで引き続ける。全ての銃弾を坂内に撃ち続けると、続けて上空に投げた弾倉を拳銃にはめ込み、再び引き金を引き続ける。

流石の坂内もこれには、驚きを隠せない。そして、坂内は気付いた・・・。
『適当に撃っているわけじゃない。確実に進路を読み取りそこにめがけて的確に打ち続けることの出来る技術と能力があるんだ。』と・・・。

しかし、坂内の能力はそれを遥かに凌駕しつつあった。

「餓鬼が……舐めるなよぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
雄叫びにも似た声が出た。その覇気で周りの建物に亀裂が走る。
足が沸騰するほどの熱を帯び、脳からの伝達よりも早く身体が反応し、アドレナリンが血を欲していた。そう、血が欲しいと言う感情が能力を更なる高みへと昇華させつつある。

ついに、弾丸の嵐を避けるまでに至った。


柳が圧倒的に不利な立場に追い込まれたはずなのに、もう一人の男はその場から動こうとしない。さも、ここまでの経過を予め知っているかのように・・・。

坂内は確信していた・・・手間取ったが129人目と130人目の死体が完成すると。
彼の快楽の源たる血を見ることが出来ると・・・・・・。


「ふぅ・・・俺の役目はここで終了だ。あとは任せた・・・・・・」
柳はそう言った・・・。最後の言葉が聞き取れないほど小さな声で。



狂気に魅入られた坂内にはそんなことは関係ない。


柳が言った言葉・・・それは彼の相棒の名前・・・。


「辰斗・・・・・・・・・・・・」



坂内の耳に彼の名前が聞こえた時には、既に辰斗の刀が心臓を捉え、貫いていた。

闇夜に光る朱い髪と朱眼・・・・・・・・・。


「おっ・・・・・・まえが・・・・・・・・・朱幻の辰・・・・・・斗・・・・・・・・・・・・・。」
今の状況が信じられないのだろうか。目を見開いて辰斗の名前を呼ぶ・・・・・・。


「そうか・・・・・・あはははははは!!!!!!!!!最高だ!!!!!!!!!」
死ぬことに恐怖しない・・・坂内を解放するかのように辰斗はもう一方の手で坂内の小太刀を取ると頚動脈を切りつけて殺した。


「・・・・・・坂内、安らかに眠れ・・・・・・・。」
辰斗が手に取っていた刀が今はその手から離れ何処にも無い。朱い髪も朱い眼も無い。
まるでそこには最初から何も存在しないように。
だが、現実的にそこでは殺し合いがあった。

絶命した坂内は狂気に魅入られた顔で居た。正真正銘の殺人鬼・・・・・・・。

「レッドリストNO,10015『坂内 透』の死亡を確認。・・・・・・任務完了だ。」

柳が辰斗の隣でそう言った。



狂気に魅入られた南条市・・・・・・。
ここだけではない、至るところ全てが狂気に魅入られている世界。
2013年に発見された最初の「突発性能力者」からたった1年間で2000万人と数を伸ばし20015年までに7000万人近くの「突発性能力者」が現れた。
ここからさらに強力な能力を有するものがその能力を使い犯罪を重ね始めた・・・。
その能力は現在の武器では到底太刀打ちできず、返り討ちにあい要らぬ犠牲者をむやみやたらに増やし続ける結果となった。
各国政府は、これの対抗策として一つの組織を生み出した。


その名前は。



「天霧」



各国政府に認められた能力者だけで組織され、組織の一員はレッドリストに記載されている犯罪者への許可なしでの抜刀、発砲などの行為が認められた、現在、唯一の対能力者専門組織である。

日本政府の「天霧」に最年少で組織の仲間となった。


桐島辰斗と柳 慶太。

またの名を・・・・・・・・・。


「朱幻の辰斗」と「奇術の柳」

さきほど、レッドリストNO,10015『坂内 透』を殺した二人組だった。












どういった経緯で彼らが「天霧」となったか・・・それはまた次回にでもお話しよう。




END